第40回熔解終了

昨日、ようやく第40回熔解が終了しました。
本ブログをふり返ってみたところ、火を入れたのは5月1日。
もう、その頃の記憶は、すっかりと頭の中から消え去っています。
暑かったのでしょうか、寒かったのでしょうか。
今よりも景気は良かったのでしょうか、それとも、もっと悪かったのでしょうか。
何も覚えていません。
日付電卓で計算してみたところ、今回の熔解は104日のロングランだったようです。
ほんとうは、もっと早く切りたかったのですが、予想外の注文が入るなどして延びに延び、結局、一年でもっとも暑い季節をモロに作業期間にぶち当ててしまったのでした。
来年は4月の1日にスタートしたい、と、ここに記しておきます。
ここ数年、ずっとそのように主張しているのですが、いつも合議の末に押し切られてしまうのです。
なぜかというと、議論しているのがたったの二人だからでしょう。
スタッフが三人だったら、どちらかを味方につけて多数決に挑めるのですが、一対一では、立場が上の者の主張が通るのが道理です。
なので、毎年毎年、「寒いのが嫌いなスタッフ」の意見が採用され、「暑いのが嫌いなスタッフ」の意見が却下されてしまうわけです。
来年はストも辞さない覚悟で強く主張することにしましょう。
まあ、仕事があればのことですが(笑)
最後の二日間は、いつものように色入りカレットで炊いたブルーの生地で作業をしていました。
再生ブルーについては、以前ここにも書いたはずです。 *1
前回は透きガラスを多めに残して明るいブルーにしたのですが、今回は、ポット(坩堝)をほぼ空の状態にしてカレットを投入したので、かなり濃い色になりました。
彩度は(比較的)高めだったので、これまでとはちょっと雰囲気が異なっています。
ポットの底の方の生地は、ジーンズのようなインディゴブルーになっていました。
この生地でアクセサリや食器を無心に作り続け、昼の12:00、配電盤のリセットスイッチを押して今回の熔解を無事に終えたのでした。
書くまい書くまいと思っていたのですが、最後に書きます。
ほんとうに、うんざりするようなクソ暑い作業でした。

廃番リバイバル

ときどき、廃番になった作品の注文をいただくことがあります。
それが大昔に作っていた作品でしたら、注文をくださったお客さんも「古くからご愛顧いただいている方」ということになります。
作るのをやめてしまったのには、それなりの理由があるのですが、せっかくいただいたご注文ですから、無下にお断りするわけにはいきません。
特別な事情がない限り、お客さんのご要望にお応えするよう努力しています。
そうして久しぶりに作ってみれば、新鮮な気持ちが甦ってそのままプロダクションとして復活することもあります。
怪我の功名というものでしょうか。
いや。怪我なんて言ってはいけません。
大切なお仕事です。
廃番の理由でもっとも多いのは、ご想像どおり「売れない」ということですが、その他にもいろいろな事情があるものなのです。
せっかくですから、例の箇条書きにしてみましょう。
1) 売れない
2) 採算が合わない
3) 色が入手不能になった
4) 歩留まりが悪い
5) 情熱が喪失した
6) 未熟に感じる
7) 似たようなものをメーカー品に発見した
古いお客さんから「あれはもう作ってないの?」といったリクエストがある廃番作品は、2) や 6) のケースが多いようです。
まだプロとして生計を立てていなかったころ、つまり、学生時代であったり、月給を受け取って生活していたころに制作していた作品は、採算が合っていなかったり、やたらと手間ばかりかかっていて、「労働時間」を無視したような価格設定で販売していたりするものです。
独立して、本物の「もの作り」として生計を立てるようになると、利益を生み出さないような作品は、どれほど売れていても制作を続けるわけにはいきません。
適正な価格に上げて作り続けるのか、それとも廃番にしてしまうのか。
自活する作家であるなら、その選択に迫られるわけです。
7) のようなケースも稀にあります。
そっくりなものを大手メーカーに作られてしまうと、いくら「こちらが先です」と説明を加えたところで、あまり好ましい結果にはならないでしょう。
ですから、そんな作品を発見してしまったら、ただちに廃番にするのがいいのです。
メーカーが簡単に考えつくような作品を作ってしまったこと自体、スジが悪かったということで、また、新たな作品を考える方にエネルギーを注げばいいのです。
まあ、それが簡単なことではないので苦労をするのですが。

緊急出動

本日、午前1:52。
携帯電話の呼び出し音に起こされました。
警報装置「あんしんSIII」の端末として使っている0円携帯が深夜に鳴っているのです。
どう考えても通報でしょう。
出てみると、人工音声が「停電」を知らせていました。
急いで着替えていると、間もなく固定電話の呼び鈴。
固定電話は、第2通報先に設定しています。
受話器を上げ「あんしんSIII」の声を確認すると、ばんっと受話器を下ろして家を飛び出しました。
昔の刑事ドラマの刑事のようです。
(今でもこんな調子なんでしょうか。TVドラマはまったく見ないので知りません)
午前1:57。
再び0円携帯に着信がありました。
「停電は復旧しました」という知らせです。
こんな機能があったとは知りませんでした。
気の利くやつです。
15分で工房に到着すると、すでに本家(あづみ野ガラス工房)のスタッフ2名が、復旧作業を終え、エントランスに佇んでいました。
軽く報告を受け、北工房へ。
われわれの溶解炉も、1,037度まで落ちていましたが問題なく復旧できました。
さて。
復旧できて良かったな、と喜んでいるわけにはいきません。
特に雷が鳴っていたわけでもないのに、どうして停電したのでしょうか。
真夜中の5分間の停電です。
事故があったようには思えません。
人為的なミスがあったのでしょうか。
これから中部電力に原因を確認してみますが、こんなことが度々あるようでは体力が保ちません。
ただでさえ寝苦しい夜を、工房の廊下の床で過ごしたくないのです。

田淵行男賞

昨日の午後、作業を抜け出して展覧会を観に行ってきました。
場所は昨年オープンしたばかりの「安曇野市穂高交流学習センター“みらい”」。
図書館も併設されているのですが、建物に入ったのは初めてのことでした。
穂高駅と柏矢町駅の中間に位置していて、「どんぺり」に酒を買いに行く際にクルマで通りがかったことは何度もあります。
それほど大きくはないのですが、白い外壁が印象的な美しい建てものです。
その“みらい”の展示ギャラリーで「第3回 田淵行男賞 写真作品公募受賞作品展」が催されているのです。(7月27日まで)
田淵行男(1905−1989)は著名な山岳写真家です。
安曇野に縁の深い方で、われわれの「安曇野の里」にも「田淵行男記念館」があるのですが、数ある美術館の中でも、指折りの「価値ある美術館」だと思っています。
その田淵行男を冠した公募展は、山岳写真、自然写真の登竜門と位置づけされていて、第3回の最優秀賞受賞作品は、中島宏章さんの「BAT TRIP」。
コウモリが飛翔する瞬間を克明に捉えた作品です。
技術の高さと、その一瞬を待つねばり強さは、シロウトのわれわれにも明らかです。
山と渓谷賞を受賞した石田道行さんの作品にも目がとまりました。
絵画を思わせる森の中の風景は、少々作りすぎているような気もしますが、揺るぎない構図と独特の色彩は、どこか突き抜けたものを感じます。
この展覧会は、9月21日〜29日に東京の「ニコンサロンbis新宿」、10月7日〜13日に大阪の「ニコンサロンbis大阪」を巡回します。
ご興味がおありでしたら、ぜひ、お運びを。
ついでにチェックした図書館のCDライブラリに、キーシンベートーヴェンPコン全集を発見して借りたくなってしまいましたが、火を切るまで我慢です。

882度からの復活

昨日は久しぶりに熱狂しました。
朝、工房に着いたら、熔解炉の火が消え、警報装置のブザーが鳴りっぱなしになっていたからです。
炉の温度は、882度まで下がっていて、デッドラインの800度までもう少しのところでした。
どうにか復旧させたのですが、しかし、いったい、いつ火は落ちたのでしょう。
一昨日の夜9:00ごろ、安曇野全域でピカピカゴロゴロと誰かが騒いでいたようでしたが、まさか、そのとき消えたのではないでしょう。
夜の9:00から朝の5:00まで、8時間もあります。
火が消えてから30分以内に復旧しないとデッドラインを超える可能性がある、と胸に刻んで、日ごろから「その時」に備えていたのですが、それは、泥棒が一人もいない離島で玄関に施錠をするような意味のないことだったのでしょうか。
昨日は今シーズン最高の熱帯夜で、なおかつ、チャージ後二日目ということでポット(坩堝)の中に生地が大量に残っていました。
最も保温力のある状態ではあったのですが、それにしても8時間も耐えたとは考えられません。
一昨日の晩から翌朝にかけて、工房に何が起こったのでしょうか。
警報装置が機能しなかったことも腑に落ちません。
単純な停電なら「あんしんSIII」が電話回線を通じてわれわれに通報してくれます。
復旧後、故障していないかテストしてみましたが、どこにも問題はありませんでした。
通報先の0円携帯にも着信履歴がありません。
ということは「停電はなかった」と考えて良さそうです。
念のため、中部電力に電話をして確認を取ってみました。
しかし、電力会社は、大きな停電の情報だけが記録されるだけで、いわゆる「瞬き停電」まではチェックしていないとのことでした。
そこで、本家(あづみ野ガラス工房)に訊いてみたところ、驚いたことに、昨夜9:00に熔解炉が止まったという情報が得られました。
同じように警報装置が働かなかったのだそうですが、たまたま残業をしていたスタッフがいたのです。
さて。
これらの条件から以下のことが推論できます。
1) 北工房の熔解炉も停電によってダウンした
2) しかし停電したのは動力の200V三相だけだった
3) 警報装置の電源である100Vは生きていた
4) 熔解炉の配電盤から送られるはずの「異常低温信号」が警報装置に届かなかった
5) 条件が整えば北工房の熔解炉には「-21度/h」の保温力がある
ともかく、早急に配電盤と警報装置のチェックをしなければなりません。
また、ポット(坩堝)にダメージがなかったと考えるのも早計です。
煮上げの日に、1,350度に達したところで、パックリ割れてしまう可能性も残されているので、ぬか喜びは禁物でしょう。
不幸中の幸いというのでしょうか、作業は1時間遅れで開始することができました。
たまたま「大型グローリーホールの日」で作業時間が短く、予定していたすべての作品にトライすることができ、その上、フィニッシュすら困難と思われていた超久しぶりの大物花器も、上々な仕上がりで徐冷炉に収めることができました。
4時間45分、ぶっ続けでハードな作業をこなせたのも、10年に一度の危機に「テンション」が高まっていたからでしょう。
人間は、危機的状況で「火事場のくそ力」を発揮するものですが、実はそれが本来の能力なのです。
日ごろのわれわれは、半分眠った状態にあるのです。
ですから、熔解炉にちょっとした仕掛けを施し、いつ火が消えてしまうかわからない状態にしておけば、普段眠っている能力を、日常的に発揮することができるはずです。
周りにいる人よりアウトプットが少ないな、とお感じになっている皆さん。
皆さんこそ、自ら尻に火をつける工夫をし、「火事場のくそ力」で仕事に挑んでみてはどうでしょう。
眠れる能力を発揮できるかもしれません。

リーフレット

昨日、一昨日は、このクソ忙しいなか、自宅のMacをパコパコして展示会のチラシを作っていました。
(パコパコというより、マウスでズルズルでしょうか)
7月4日から地元の「Restチロル」で催される展示会のチラシで(だからと言うわけではないのですが)、オフセット印刷を使わず、モノクロコピーでの配布が条件です。
A4モノクロコピーのリーフレットを制作するのは初めてですが、勘どころはなんとなくわかります。
文字と写真のコントラストを強くして人目を引けばいいのでしょう。たぶん。
文字情報をすべて右半分まとめて、センターにパッキッとした字面を出すのがポイントです。
左半分はもっと真っ白くしたいところですが、写真を大きくしてわかりやすくする、という常識とのバランスもとらなくてはなりません。
どうしても切り抜き写真を使いたかったので、このような作品の並びとなりましたが、あり合わせの写真を使った最下段の作品が少々間抜けに見えます。
差し替えましょうか。
でも、そこまで一生懸命になるようなものでもありませんし。
出品者のご意見に従うことにしましょう。

安曇野スタイル

安曇野スタイル』とは、安曇野で活動する工芸家が中心となって、2005年に発足した観光イベントです。*1
秋の行楽シーズンに、個人工房や美術館、その他の観光施設がそれぞれ同時にイベントを催し、「安曇野」という広いエリアを、県内外の観光客に回遊してもらおう、といった趣向の催し物です。
年々規模が大きくなり、今年はなんと、県外まで「スタイル」の輪を広げたようです。
北工房はお客さんの応対ができない施設なので参加していませんが、2006年には、このイベントのグラウンド・ゼロである「赤沼家」の展示会に出品させていただきました。
もちろん、本家の「あづみ野ガラス工房」はオープン工房なので、第1回目から参加していてます。
また、卒房したスタッフたちも、実行委員に加わって、深くこのイベントに関わっています。
この『安曇野スタイル』に刺激を受けたのか、お隣の松本市でも『クラフトフェアまつもと』をコアにした『工芸の五月』というイベントを2007年に立ち上げました。
何ごとにつけ、露骨な「後追い」は格好悪いものですが、切磋琢磨することはいいことです。
というより、どうせなら一緒にやればいいのに、と思うのですが、だめなんですかね(笑)
安曇野市も対抗意識に目覚めたのか、妙に力を入れているようです。
とりあえず、信濃毎日新聞社の記事を下に引用しておきましょう。
北工房は出品していませんが。

安曇野の美術館など「出張展示会」 芸術の街、魅力紹介
 安曇野市北安曇郡池田町、松川村の工芸作家の制作現場を公開するなどし、既存の美術館を含めて一帯を回遊して楽しんでもらう秋のイベント「安曇野スタイル」にちなんだ展示会が6月、兵庫県内と東京都内で相次いで開かれる。作り手らは安曇野の芸術や工芸、自然を含めた芸術環境などを全国にアピールする絶好の機会になると期待している。
「スタイル」は、豊かな自然など安曇野の魅力を伝えようと、地元の工芸作家や美術館が参加して毎秋に開く。今年4月には、商店街活性化も狙って安曇野市のJR穂高駅前に常設店を開いた。5月には、秋のイベントとは逆に安曇野の作家が一堂に集まる「安曇野スタイル市」も同市内で行うなど、活動の幅を広げてきた。
兵庫県では「スタイル」に加わる、安曇野ちひろ美術館安曇野高橋節郎記念美術館など9美術館の収蔵作品を並べる「安曇野スタイルの美術館展」を開く。10〜15日は神戸市のアートホール神戸で、19日〜8月1日は兵庫県豊岡市の県立円山川公苑美術館が会場。写真、彫刻、絵本原画など多彩な品で、規模は小さいが個性的な美術館の存在をアピールする。
東京都渋谷区では、25日〜7月4日に東急ハンズ渋谷店で木工、陶芸、ガラス工芸など約20人の作品展を開く。流行の発信地といわれる渋谷で体験講座なども開き、作り手が客に作品に込めた思いを伝える。植栽や丸太なども持ち込み、安曇野の雰囲気も盛り上げる。
「美術館展」は、昨年作成した活動を紹介する「スタイルブック」を見た兵庫県内の美術館学芸員が開催を打診。東急ハンズでの作品展は、若者らに人気の店で開きたいと「スタイル」側が3年前から働き掛けていた。
活動をまとめている「安曇野スタイルネットワーク」代表の岡本由紀子さん(40)は「外に出向いてさまざまな安曇野の魅力を伝えたい。地元への誘客にもつなげたい」と話している。 (長野県、信濃毎日新聞社